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〔2016/5/19 up〕
 

若手のリーダー聞く 個人加盟からみた産別組織
保科新宿一般労働組合元委員長
神部首都圏青年ユニオン委員長

 

 東京地連は1月23日、春闘討論集会を開き、「スペシャルトーク」として、個人加盟組織の若手リーダーとして活躍している首都圏青年ユニオン委員長の神部紅(じんぶ あかい)さんと、現在は東京労連事務局長で、新宿一般労働組合の委員長だった保科博一さんを招いて、個人加盟組織から見た産別組織のあり方などを聞きました。

 ――まず、お二人のプロフィールからお願いします。
【神部】 首都圏青年ユニオンの委員長をしています神部と申します。学校を出たらすぐに働きたかったので工業高校に行きました。家を出て自分の腕一本で生きる、職人的な世界にあこがれもありました。インテリア科でデザインや木材加工の勉強をして、実際に卒業後に家を出て働きました。デザイナーとして入社した企業が、今でいうところのブラック企業でした。土日もなく月10万円で……1日にひどい時には18時間も働かされました。とてもじゃないけどやっていけないということで労働組合に相談に行きました。
 でも結局、何をやってくれるのかよくわからなくて。自分1人で裁判をやりました。その時に感じたのは、自分のような働き方をしている若い人たちには労働組合が必要だということです。地元に労働組合をつくろうと考えて、2008年に千葉青年ユニオンという個人加盟の労働組合を立ち上げました。それが労働組合とかかわるようになったきっかけです。
【保科】 私は現在、東京労連事務局次長ですが、もともとは新宿一般労働組合という新宿区内で誰でも入れる労働組合で6年間専従をしていました。そのことを中心にレジュメを作らせていただき、お話させていただきます。労働組合の組織率が17%という状況ですから、個人加盟労働組合と単位労働組合が、同じベクトルで運動していくことが重要だろうと思います。
 私が組合にかかわるきっかけは、自分の働き方に疑問を感じていたからです。大学を出て映画制作会社に正社員で入ったのですが、その後、業務用エアコンを解体して洗浄する仕事を契約社員でやっていました。実は簡単な技能でできるのですが、そこで若いからということで酷使されていました。どうしてこういう働き方をさせられるのかと思っていましたが、私はずっと新宿に住んで学んで働いてきましたので、新宿一般労働組合があることを日本共産党の地域支部の方に聞いて、組合に入りました。
 一番ビックリしたのは、労働相談に若い人たちがたくさん来ることでした。別に共産党という政党を批判するつもりはないのですが、党の地域支部ではおじいちゃん、おばあちゃんと毎日毎日一緒になるわけですよね。若い人が来るなんてあまりないです。それで初めて労働相談に同席させてもらった時に、若い女性が来たんですよ。労働組合なんかと縁のなさそうな若い人の話が聞けるのが労働組合なんだと思って、これはやってみる価値があるかもしれないなということでかかわり出しました。

 ――お二人の組合はどんなところでしょう。
【神部】 首都圏青年ユニオンは、首都圏で働いているとか生活の拠点がある、若い人たちを中心に組織している労働組合です。男女比は男6対女4ぐらい、非正規労働者の方が多いですが、無職の方や生活保護を受けているような方から、高校生、学生、院生といったように幅広くいます。首都圏学生ユニオン、首都圏高校生ユニオン、都留文科大学学生ユニオンという分会があります。ここ2~3年で一気に学生を組織化しています。ブラックバイトといわれるような働き方が広がっていることに、労働組合が何もしなくていいのかということで組織化を始めています。
 組合員数は380人ぐらいです。財政的には困難な状態です。マックス4人の専従がいましたが、いまは私を含め2人です。常時40件ぐらいの団体交渉を回しながら、バンバン相談にのってバンバン解決していくということですね。裁判も二つやっていますが、日常の活動、労働相談活動もしながら団交を40件やるというのは、相当しんどいです。なんとかがんばっています。
 “首都圏青年ユニオンを支える会”という財政的に青年ユニオンを支えようという会があり、全国に1200人の会員がいます。組合費は、無収入の方とか高校生は500円という設定をしており、組合費で専従者を維持するのは大変です。支える会やカンパでなんとか維持しているという形です。
あと大きな特徴として顧問弁護団があります。そこに弁護士が24人います。この弁護団の目的はシンプルで、「首都圏青年ユニオンの組織発展を図る」というそれだけです。顧問弁護料は全く払っていません。むしろカンパをいただいています。裁判闘争などにも協力をしていただいています。ただ青年ユニオンの場合、団体交渉でほぼ解決をします。いま裁判を2件抱えていますが、よっぽどたちの悪い企業でなければ、まず裁判にいくことはありません。
【保科】 是村委員長から今日のお話をいただいた時、お世辞も含めてと思いますが、「個人加盟の優位性を」とありました。ここでは新宿一般労働組合の紹介とそこに優位性があるかをお話します。ですが、はっきり言って、個人加盟の優位性はないと思っています。
とはいえ、首都圏青年ユニオンの活動は素晴らしいと思います。年間で40件近く団体交渉で問題解決しているとは、日本で一番団体交渉をやっている組合ではないでしょうか。それを私と同年代の2人の専従がこなしているというのは、本当に敬意を表したい。20、30代の組合活動をやっているみなさんと話していると、だいたい新宿一般がカッコいいと言う人はいないですが、青年ユニオンがカッコいいと言う人は多いです。秋田書店とかベローチェとか、有名企業と闘っているというので、若い人を中心に青年ユニオンに対しての憧れというか、シンパシーを持つ方がたくさんいると思います。そういう意味では青年ユニオンにはもっともっと東京の中心に座ってもらいたいと思っています。
 新宿一般も、同じように個人加盟の労働組合です。新宿区内に在住・在勤している人が対象です。神部さんから支援組織の話がありましたが、私たちには全印総連でいえば光陽メディア労組や新日本印刷分会といった新宿区労連にも同じく加盟している労働組合からの「協力組合員」がいます。それと労働相談から加入してくる一般組合員で構成されているわけです。
 私が委員長を離れたのが昨年の12月の大会でしたが、その時で新宿一般は585人でした。協力組合員というのは、単純にお金を出してもらうということではなくて、他の同業を含む様々な会社の労働環境を知ってもらって職場での活動に生かしてもらいたいという意図もあります。日本の働き方は、入社して定年まで勤めることを前提にします。だから他産業の状況とか、あるいは地域で何が起きているかは、なかなか知る機会がありません。職場の要求は生活実態に即してつくるわけですが、要求が獲得できる如何は他産業の状況だとか、社会全体の賃金相場に必ず影響されます。そういう意味で、ほかの状態を知ることは、単組の機能強化につながるでしょう。新宿区労連として新宿一般を結成する時から、一般組合員と協力組合員で構成されています。この形で地域に根ざした組織拡大を進めてきました。
 その上で、個人加盟の優位性がないと思うのは、「果たして日本の労働組合は団体交渉をしているのか」と思っているからです。私たち個人加盟の団体交渉は、“異議申し立て”型で、職場でトラブルがあって、職場を離れることを前提にした中身が多いです。職場での要求を基にして継続的に交渉して勝ち取るというのと違い、解雇されたとか、会社はもう嫌だから団体交渉してなんとか一矢報いたいとか、そういったことが中心です。
 その上で、「日本の労働組合は果たして団体交渉をしているのか」ということを一緒に考えたい。率直に言いますが、いまの企業別労働組合とか産業別労働組合とか地域労連とかが、団体交渉を本当にしているのかということを、世界から考えてみる必要があるのではないかと思っているのです。本来、団体交渉は、産業全体とか職場全体の働く人々の労働条件を規制するものです。そしてそれを追求することが労働組合の本来的役割でしょう。でもこれがやりきれてない。そこでどうやって私たちが未組織労働者に対応するか……。これだけブラック企業が広がっているわけですから。労働組合の機能強化を、すぐには出来ませんが、5年10年かけて、議論していくことが求められているのではないかと思っています。

 ――保科さんから、「日本の労働組合は団体交渉をしているのか」という問題提起がありました。神部さんにお答えいただきたいと思います。それから青年ユニオンは380人とのことでしたが、たぶん出入りがあるのだろうと思いますが、そのあたりも含めて答えていただけますか。
【神部】 日本の労働組合が団交をしているかどうかはよく分かりません。そこまで多くの労働組合や団体交渉の内情まで把握しているわけではないです。首都圏青年ユニオンの場合は、何件もの団体交渉をやるわけですね。ブラック企業、ブラックバイトといったようなものが、駆け込み寺的に持ち込まれます。
労使間での緊張関係は、おそらく企業内労働組合などとは比べものにならないと思います。その中で、団体交渉の交渉力などは必然的に鍛えられるだろうなとは感じています。経営者だけではなくて、弁護士や社労士みたいな法律を専門的にやってらっしゃるような人たちとバチバチやりますから、必然的に学習もしていかなければいけないし、交渉力というのも鍛え上げていかねば対応できません。別に企業内労働組合がどうこうという話ではなくて、そういう特徴があるという話です。
 あと青年ユニオンの特徴の一つでもあると思いますが、もぐら叩き的に団体交渉をやればいいというようにも考えてはいません。個別の労使関係をどうしていくのかということだけではなくて、「どのようにして社会全体をどうより良いものに変えていくのか」を考えようということです。なので、社会運動的な展開も考えています。戦争法も当然そうだし、社会保障や消費税といった問題、こうしたことにも青年ユニオンが関心を持ちながらやっています。最低賃金の引き上げの運動で、ファストフード・グローバルアクションという、世界の労働者と連帯をした“時給1500円に”という運動の展開も2013年から始めています。私自身、ニューヨークやブラジルに行き、世界各国の労働組合の活動家とつながりながら、どう変えるか、国内外問わずに運動の展開を考えています。また、2月に記者会見する予定ですが、ナショナルセンターの違いを超えた超党派で労働組合のみなさんと、最賃引き上げの運動を仕掛けるという計画もしています。
 青年ユニオンの組合員の多くは非正規なので、職場を移り、全国を転々とする“漂流型”のような働き方をされている人も多く、そういう人たちには無収入になり組合費も払えなくなる方もいるわけです。なので、組合の帰属意識をどう高めていくのかなど考えながらやっていますが、現状は組合員数を何とか維持しているといった状態です。

 ――新宿一般の組合員数の推移はどうでしょう。それと、他産業の状況を知るために協力組合員制度を活かした活動をしているということですが、どういうプラスの効果が生まれていますか。
【保科】 質問に答える前に、団体交渉についての考え方の補足を先にさせてもらいたいと思います。青年ユニオンも私たちも、全印総連の個人加盟もそうだと思うのですが、日本の労働組合法で経営者は拒否できないから団体交渉ができています。それ以外の何物でもないわけですよね。では、その日本の応諾義務がある団体交渉は何かというと、アメリカの法律が基本になっています。もともとは、労使紛争の平和的解決を産業全体で行うことと、産業民主主義を発展させて労働者と使用者が対等に話し合って労働条件をつくるため、団体交渉が設置をされたということなのです。例えばフランスの労働組合の組織率は10%もありません。世界的にみてもこの組織率は低い水準です。しかし労働協約、企業別の協約を発展させた産業別の協約ですが、そのカバー率でみれば、2000年代後半のデータによれば、フランスは上からオーストラリア、ベルギー、スロベニア、スウェーデン、フランスということで、トップ5に入っています。つまり組織率は日本より低いけれど、この労働協約で90%近い方の労働条件が守られています。こうしたことを目指すのが、応諾義務を持つ団体交渉だと思っています。
 それでは新宿一般の協力組合員制度で、どういうプラスの面があったかということですが、まず新宿区労連を含めた地域組織について話させてください。産別の皆さんの前で言うのがすごく恐縮なところもあるのですが、会費でいうと、地域は産別の10分の1ぐらい。それほど違うのですよ。一人の組合員から月に低いところで80円、高いところでも150円ぐらいです。年間予算は500万~1000万円といったところですが、ある地域では、専従者は大病を患いながら年間予算100万円以下でやっているのです。それが地域組織の現状です。労働運動全体に対して、どれだけ影響を及ぼすことが出来るかというと、まずもって非常に力が弱いです。ただそう嘆いていても仕方がないので、我々なりに出来ることをすれば様々あるので、それをやっています。
 では、協力組合員制度ですが、やはり日本の企業主義(正社員主義)を克服するために導入をしました。労働相談を共有して、それを生かして産別、単組の労働運動を強化したいという方向です。どういう変化があるかというと、非正規社員の組織化が進んでいます。AEDをつくっている大手企業の日本光電労働組合は、新宿区労連に加盟してましてストライキを1年かけて行いました。その結果、非正規労働者の正社員登用制度という大変貴重な成果を勝ち取っています。C&S労組では、非正規労働者がグループ会社にいて、そこを組織化して裁判含めて闘いましたが、そのきっかけとなったのは、やはり新宿区労連の幹事会で労働相談を共有していたことです。正社員だけだった職場に非正規労働者がどんどん入ってきています。そういった人に身を寄せて活動していくためには、非正規労働者とか、労働組合のない職場の実態を学ぶことしかないと思っています。
 非正規労働者を組織化しないと、労働組合を触媒にして、起きかねないことがあります。一つは組合員の要求と言いながら、実はそれが正社員の要求となってしまうということです。二つ目は、正社員のみ組合に加入できるとされている組合の場合は、非正規労働者にとって自分たちの利害を代表してくれる組織が職場にないことになってしまうわけですね。 そして三つ目が、正規労働者の賃上げが実現した場合、その原資について使用者が、新規採用で正社員の採用を控えて、非正規労働者を増やすとか、下請け単価の切り下げや外注化で対応するかもしれない。つまり、「その職場で働いている組合員、正社員は労働条件を獲得できても、その周辺で働いている方についてはどうなのか」という問題が起きてしまうということです。これはいま、労働組合に問われている大きな課題ではないかと思っています。

 ――今の問題提起は重要だと思うんですが、低予算とか、組合費が80円とか、なかなか情報の共有が出来ていないところで、私自身ビックリしました。
【保科】 もともと全労連の構成組織として、地方労連の地域組織があるんですけれど、もう会費が全然違うので大変……、まあ産別も大変だとは思うのですが。地域もそれぞれでやっているので、年100万円ぐらいの予算ところもあるということです。

 ――では戻して、そういう状況がある中で、全印総連に期待しているところはどうでしょう。
【保科】 期待はしているんですよ、ホントに。産別を敵視しているとかは全くなくて。こういった場で話をさせていただくこと自体が、なんて心の広い産業別組合かと思います。今日のこれまでの話をしたら、もう頭にくる産別も結構ありますので。
 それでは、産別のみなさんと共有したいことを述べさせてもらいます。企業別労働組合も、私たち個人加盟労働組合も、未組織労働者も、日本の雇用システムの中で働いているということは、全く変わらない。このことを私たちは見つめ直す必要があるんじゃないかなと思っています。
 共有したいことの一つは、解雇・リストラについてです。労働契約法では16条で「そう簡単に解雇できませんよ」となっています。日本の解雇制限が厳しいとか経営者側の学者などがよく言いますけど、現実は全くそんなことはない。労働局の斡旋事案をまとめた本にあるんですが、それによると解決金の中央値は、平均とういうことですが、17万円で1カ月の賃金にも届かないのです。労働審判は約100万円……正社員として解雇されてですよ。その上で裁判で1年以上闘っての和解の平均値が300万円。この研究をまとめた方にいわせると、本当に中小企業の職場では、容易に雇用終了が行われているということです。青年ユニオンのみなさん方も実感は同じだと思いますが、まともな労働組合がなければ、自由に解雇されるのが今の中小企業の実態です。こうした状況が日本にはあります。
 もう一つは労働時間です。「日本の労働時間はどうなんだ」「法的規制はどうなんだ」ということで考えてみると、残業時間については、物理的な労働時間を制限する法律は、現在の日本には全くないんですよね。戦前の工場法では、年少者や女性には12時間という制限がありました。1997年の労基法改正の前は女子の保護規定があったんですが、いまは全くありません。育児介護休業法で、就学前の児童か要介護状態にある家族がいる場合にのみ、1カ月24時間以内に残業を制限するよう請求できるだけなのです。私たちはよく「憲法を守れ」と言いますが、じゃあ労働時間についてはどうなっているか。実は憲法が活かされていません。憲法27条を英語で書くと、その2項は「Standards for wages, hours, rest and other working conditions……」で、「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は……」となりますが、“rest”というのは“break=休憩”ではなくて“rest=休息”なんですよね。つまり日本国憲法できちんと定めなければいけないこととして、“休息”というのがあるにもかかわらず、休息を全く法律で定めていない。例えばEUの労働時間指令では、「1日24時間につき、最低連続11時間の休息期間を付与する」となっているわけです。でもみなさん方が終電まで仕事をしても、翌日は朝8時には出社しなければいけないですね。ヨーロッパでは、夜遅くまで残業した場合の“休息”が定められているということなのです。これが産別のみなさんと一緒に考えたいこととして挙げさせてもらいます。
 つまり、いま日本で働いている状況は、産別のみなさんも私たちも、日本の雇用システムに問題があって、これをどう解決していくかということになるわけです。残念ながら企業内で交渉しても、取引先が長時間労働であればそれに影響されるわけですから、産別のみなさんと同じ方向にベクトルを向けて、労働時間の規制とか働くルールが守られる環境をつるくとか、労働運動が一致団結することが重要だと思っています。

 ――企業内でやるということが、労働者全体の権利向上というか、働き方を良くするということでいいんでしょうか。
【保科】もちろん、企業内も大切ですが、企業内での交渉には限界があると思っています。ですので、いま産別のみなさん方の交渉も素晴らしいんですが、産業全体を規制するまでとなると、なかなかどこもそこまでやりきれてないと思います。であれば、企業内の交渉、春闘は大いに闘いながら、企業を出て産別、地域が一体となって制度政策要求で労働基準法改正とか、労働時間のルールづくりを政府に求めていく。そして世論に訴えることが重要なんじゃないかなということです。ちょっと説明が分かりにくくてすみません。

 ――こちらも理解が足りず、すいません。では、神部さんはどうですか。『印刷出版フォーラム』もかなり読み込んでいただいたようですが。全印総連の状況なども含めて……ちょっとハードルを上げてみましたが、何か期待することはいかがでしょう。
【神部】 みなさんは『印刷出版フォーラム』は読んだ方がいいと思いますね。いま考えているのは、社会福祉とか社会保障が少なくて、生活費における賃金への依存率が上がれば上がるほど、企業への依存が進むということです。ブラック企業、ブラックバイトにおいても、「共依存」的関係があると思うんですよ。「辞めたければ辞めればいい」と安易に口にする者がいますけど、実際には学生だったら学費の問題がある。日本の学費は世界一です。そして家計の所得も減っていて仕送りも減っているもとでは、働かないと学べないという状況があるわけです。そこを辞めてほかに移れたにしても、そこもブラック企業、ブラックバイトであるということもあるわけです。
 いま増えているのは、「辞めたいのに辞めさせてもらえない」という相談です。「人が足りないからギリギリの人員で回しているから辞めたら困る」とか「君が辞めたら求人広告を打たなきゃいけない。その広告費用を払え」とかですね。弁護士もこうしたものに加担して損害賠償請求をかけてくる。私が聞いた中で一番ひどかったのは、300万円の損害賠償請求をされた19歳の大学生がいます。こういうメチャクチャなことがやられている。つまり、働かないと生きていけない、生活できないという状態になっている。企業依存が進んで生活を人質にされているという関係が広がっているわけですから、労使関係というのは、必然的に奴隷関係に成り下がっている状態だといえると思うんですね。
 つまり職場の中だけでなく、労働運動以外の取り組みにも労働組合は意識を払わなければいけないと私は考えています。労働組合が使用者側と交渉するだけでは、労働者の家族の生活、まわりにいる労働者の生活までが良くなるわけでもないので。例えば、子供の教育とか地域インフラの整備、学校とか暮らしそのものを、丸ごとひっくるめて引き受ける、もしくは考える必要があるんじゃないかと思っています。アメリカでは、“コミュニティー・オーガナイジング”という手法があります。地域を組織するということです。今の状況を変えるためには、まずその職場が立地しているコミュニティーと労働組合との接点を探してかかわっていく。それが戦略化されています。こういったことも重要だと思っています。
 “最低時給15ドルに”という運動が世界中で広がっています。このアクションも、やはり地域との関係……地域を組織することをかなり意識して運動を組んでいるわけです。現在アメリカでは1100万人の労働者がこのキャンペーンで賃上げを勝ち取っていますし、ニューヨークとかロサンゼルス、シアトル、サンフランシスコ、そういったところでは実際に時給15ドルへの引き上げは認められていて、運動は広がっています。選挙の中でも、運動を支持して認めるという政治家も増えています。
 もっと労働組合はリスクをとるべきではないかとも考えています。当然、労働組合員の権利を守るために闘うというのは当たり前のことではあるんですが、さっき触れたような企業強依存的な状況になっていたり、産業そのものが衰退しているもとでは、「どうやって労働者全体の権利を向上させていくかを考えていかなければ、労働組合はなくなっていってしまうのではないか」という危機感を私は覚えます。ですから私自身は、個人加盟の労働組合で非正規が中心ではありますが、みなさんとのお付き合いであったり、企業内労働組合であったり、他の産業のみなさんのところにも積極的に足を運ぶべきだと考えています。
 『印刷出版フォーラム』の中でも出ていると思いますが、シナノ出版印刷やプリントパックの話も紹介されてます。以前、大久保さんに私たちの組合に来ていただいて話してもらった時に、営業として訪問すると「あらゆるところでプリントパックと比較されて値下げを言われる」とおっしゃっていました。人件費や労働者の命や健康を削って利益を上げる企業というところと、競い合わされていると。この『印刷出版フォーラム』の中でも、そういう実例が生々しく語られています。通常25年と言われている輪転機の寿命を延ばすためにどうするのかを話し合っているとか、工業会に入っていない印刷会社がテリトリーを荒らして、いまの金額より安くするよと触れ回っているとか。そういった中で、労働組合は何ができるのかを真剣に考えなければいけないですね。
 私が興味深く読んだのは、アンケートの「労働組合の活動で役に立っていると思う活動は?」という質問の回答で「団体交渉」がトップなんですよね。これは、なぜでしょうか。

 ――団体交渉をすることで何かしら自分に利益があったとか、要求が実現したとか、そういうことだと思います。
【神部】その内情は分析されてないのですか?いらない活動のトップが「ガンバロー三唱」とありましたけど、断トツで多いですね(笑)。私は「ガンバロー」好きなんですけどね。労働組合に期待をしていることでは、「組合に相談しやすい環境づくり」が43.6%で一番多いんですよ。私は、企業の中でみなさんのまわりにいる同僚の中で、労働組合は期待はされていると思います。このアンケートを見ても、まだその求心力は失われていないと思うんです。ただ、団体交渉が役に立っていると思うと書いてあるけど、その中身はどう役に立っているんだろうというところが、私が気になっているところです。やはり水は低きに流れるというか、その職場の中で声があげられなくて非常に悪い待遇に置かれているような、いわゆる非正規労働者が職場の中にいれば、全体の労働者の賃金や待遇というものは、そこに引きずられて下がっていきます。
 非正規のアンケートも取っているということで、その中身も『印刷出版フォーラム』の中に報告されています。こういったアンケートを非正規から集めているということも非常に素晴らしいとは思うのですが、私があれ?と思ったのは、「労働組合から勧誘を受けたことがない」方が23.1%もいるんですね。あとはやはり男性中心なんですよね。未加入は全体で46.8%です。女性が58.1%ということで、男性のいわゆるオッサン中心の労働組合になっている。つまり、男女でいったら女性の方が“声があげられない”“待遇が悪い”というのが必然的な状況ですけど、そういう職場の中で声をあげられない人たちの要求・願い・待遇改善のために、労働組合が闘っているのかということは、検証が必要なのではないかとは感じます。
 アンケートでは、「正規の社員になりたいですか?」という問いに対して、「条件が合えば正規の社員になりたい」が一番多い回答です。でも、「労働組合に入っていない」と回答した人への問いかけに対して、労働組合に「入りたくない」が30.8%といるのです。気持ちはせめぎあっているとは思うんです。「安定した働き方をしたい」「自分の待遇を良くしたい」「賃上げをしたい」というのが、正規にも非正規にも共通する要求がありますが、じゃあ何で組合に入らないのか?ということころを、もっと考える必要があるのではないかと思います。非正規をどう見るかなど、こういったことは当然、私たち個人加盟の労働組合は得意としているわけで、今回のような会であったり、意見交換なども通じて、職場の中でどう組織するのかということも一緒に考えることは、私は可能だと思っています。私自身はそういった取り組みをみなさんともやっていきたいと思っています。

 ――アンケートの中身をきちんと分析しなければいけないというのはそのとおりです。また、これまでの中に、神部さんの「もっと組合はリスクを取るべき」、保科さんの「地域に出て行く」「制度要求をきちんとする」というお話がありました。先ほどの是村委員長のあいさつにもあった通り、やはり職場が核になってそこから広げることが重要だと思います。でも、この会場もベテラン層が多くて、若い人が少ないです。「どう声をかけたらいいかわからない」とか「どう育てていったらいいか分からない」ということが悩みとしてあると思います。保科さんは「女の子としゃべれるから専従になった」と、それは冗談でしょうけど、どうやって声をかけるか、どうやって組合活動に引き込んでいくか、そのあたりのテクニックを聞けると参考になると思います。
【保科】 職場が核に、というのはその通りだと思います。春闘を見ていてなのですが、職場要求までは素晴らしいと思っているんです。生活実態に合わせて要求を練り上げるということは、賃金以外のことも含めて素晴らしい。でもその要求をどう取るのかという時に、何でいつも所属する企業に対してだけ要求をするのか。生活実態を改善したいという要求は分かるのですが、それが何でいつも働いている企業にだけなのかと思うんですよね。それを政府とか行政機関とか、どうやったらその要求が取れるのかということを真剣に考えて、5年10年20年かかるかもしれませんが、神部さんから紹介されたアンケートの中身も含めて、春闘自体もいろいろ真剣に見つめ直す必要があると私は思っています。
どうやって組合活動に引き込んでいくか……というのは数をこなすしかないし、私もそんなにうまくはないと思います。新宿一般の組織拡大がこれまで一般組合員含めて増えていったのは、すでにその方自身にきちんと要求があるからなんです。それは解雇されたとか、先ほど「異議申し立て」と言いましたけど、もうトラブルに遭っているんです。だからその人は組合に入らないと解決できないから、もうその場でみんな加入届を書くんですよ。
 新宿一般の事務所は、タクシー会社のグリーンキャブの中にあります。横が従業員用のお風呂場になっているんですよ。タクシーは一日勤務なので、勤務が終るとお風呂に入って帰りたいんですよね。だからほとんど男性しかいなくて、パンツ一丁で朝から歩いているようなところなんです。でもそこに若い女性が来て、私たちがちゃんと説明をして、「あなたの要求がかなうかもしれない」「一緒に闘えばなんとかなるかもしれない」と話せば、その人は組合に入るんです。だから先ほどの神部さんの話もそうですけれど、個人加盟労働組合に加入する人が多いわけです。そういう状況と、みなさんの職場での組織化活動は、またちょっと次元が違うと思います。同じ職場で働いている中で、どうやったらその人の要求を引き出せるのかというのは、私たちの活動とは違います。そのアドバイスはなかなか言えるものではないかと思います。
【神部】 個人加盟でもどこでも同じだと思いますが、若い人たちが声をあげづらいという状況が広がっていると感じています。これは若い人たちだけじゃなくて、当然、非正規で働くような人の多くもですね。権利の主張をすれば、それは不利益に遭遇するリスクと背中合わせです。なので、私自身は、表現をしづらい、声に出しづらいのであれば、少しでも声の出せる場、いわば、発声練習の場を労働組合がつくっていく必要があると考えています。そういった場を、職場の中や外でも意識的にメニューとしてつくっているかどうかを考える必要があると思っています。青年ユニオンの場合ですと、全員参加型というスタイルでやっているので、運営や財政的な部分で意見をする場に、一般の組合員も参加が出来ます。意見が自由に言える場というのを確保しています。なので、青年ユニオン自体は従来の労働組合の中のいわゆる青年部ではなくて、労働組合としての交渉権や争議権もひっさげて立ち上がったと言えます。そのため、メンバーであれば誰もが制約なく自由に立ち振る舞いが出来るということです。誰もが団体交渉や司法闘争を通じて、勝利を目指すことが出来るということ。これは私は当たり前のことだと思いますが、この当たり前が労働組合の常識には必ずしもなっていないと言えます。
 学習会やいろんな集会、イベントはもちろん大切だとは思いますが、主体性がそれで育つとは限らないです。そもそも団体交渉とか戦術決定の一つひとつに加えてもらえずに、組合活動に熱心になるような若い人はいないだろうと考えています。お客さんのためにいい仕事がしたいとか、もっと賃上げを勝ち取りたいとか、待遇を良くしたいとか、自分が働く場で自己実現を真面目に希求するのであれば、やはり、そういう若い人たちが、しっかり声を出せるような場であったり、直接の交渉権であったり、戦術手段の意思決定に直接かかわってもらうか、くぐってもらうようなメニューをつくる必要があると思います。よりよい賃金と労働条件をもぎ取りたいというのは自然な要求ですから。
 アンケートの中でも、一方的に書かれたものですからそれが事実かどうかは別にして、「いろんな要求というのがどう決まっているのかがわからない」とか「執行部の中が閉鎖的だ」とか「労働組合の具体的な活動が見えてこない」ということなど、職場の労働組合の不満な理由をあげればきりがないですけど、たくさんあります。「難しいことだけど、労働規約の前進があまり感じられない割りに、後退することは多く感じられる。男のための組合だと感じる」という方もいますが、こういった声も組合の意思決定にこの人がかかわる場があれば、と思います。愚痴的な形ではなくて、「組合を良くしたいという意見を持っているんであれば一緒にやろうよ」という当事者性をもった関係がつくれると思っています。
 世の中全般に、実践と修練によらずに、技能とか創造活動の継承がかなうような活動は一つもないのです。それは労働組合においても同じでしょう。そういった場を若い人たちに、これは賃上げして欲しいとかもっと休みが欲しいという要求の形で現れていますが、「どう勝ち取っていくのかというのは、組合を通じてこそなんだよ」ということを労働組合は積極的に提示して、ここに参加しようよという形を提案していく具体性が求められているのではないかと思います。

 ――身につまされる思いで話を聞いていました。役員のなり手がいない話は、私の組合でも聞かれるのですが、その間のプロセスというか、きちんと訴えかけをしているかとか、一緒にやるように主体的に取り込めるような呼びかけをしているかと言われると、疑問だなと思いました。最後に、神部さんと保科さんの今後の展望や構想をお願いします。
【保科】 どうやって声をかけるか、どうやって組合活動に引き込んでいくか、という質問に答えきれなかったと思います。でも、それが難しいのは、基本的に要求が取れないからでしょう。自分の要求がかなわないと思うから、組合に参加しないというのがあります。1974年の大幅賃上げ以降、なかなか要求が取れない状況が続いて、さらに、経団連の「新時代の日本的経営」を発表して以来、非正規がこれだけ増えています。自分は正社員で入社したからボーナスがもらえるけれど、長年働いている契約社員やパートの方は全然そういうのがないというのが、職場に起きた大きな変化です。この状況の中で、どういう要求があるのか。やはり底上げをしないと、賃金は上がらないんじゃないかなと思います。経営者の側からすれば、正社員の賃金の半分ぐらいで仕事をいっぱいやってくれる人がいれば、そっちを使うことになってしまうので、労働条件の底上げ・規制をしないと、正社員の賃金や労働条件の引き上げは、かなわないんじゃないかと思うんです。
 もう一つがやっぱり、“他産業の状況”とざっくり言いましたけど、印刷産業であれば出版産業とのかかわりは非常に大きいと思います。出版の方々が夜遅くまで働いていれば、それに合わせて印刷・製本の方は夜遅くまで働かなくてはならない。いくら素晴らしい労働組合があったとしても、その会社に他産業との取引があれば、単価や労働時間などいろいろな面で影響されるというのが、どこの世界でもあります。そういう意味では、先ほど述べたように日本の雇用システムには労働時間の規制がないわけですから、いま求められているのは短期的にいえばそこに法制度を確立することでしょう。5年10年を見据えてやっていく。労働時間の問題では組織労働者にとっても切実な問題です。
 賃金の引き上げを求めるということを、産別組織でいいますが、現場の方に聞くと「賃金なんか上げなくていい。むしろ夜勤がこれだけあって働き続けるよりも、労働時間を削って欲しい」という要求が切実なんですよね。だから、賃上げは重要ですが、「それ以外にもあるんじゃないのか」ということを見つめ直すことが必要なのではないかと思います。
 今後の労働運動として端的にまとめさせてもらうと、制度・政策要求を掲げて産別・地域が一緒にやっていくことが、現実的には重要だと思います。公契約にしても組合がない職場に大きく影響することですから、やはり制度・政策要求が現実的な闘い方として重要でしょう。
 もう一つが、スト権です。全印総連は戦争法案反対でスト権を確立しましたが、地方労連、地域労連ではストは今後の検討課題ではないかなと思います。実はここに今の労働運動の現状の一つが表われていると思います。まだまだ地域組織は共闘組織と思われていて、確立していないのだと思うのですよ。だから、地方労連、地域労連はストで闘うことを追求していかなければならないと考えます。
【神部】 直接的には、全印総連のみなさんとは、京都のプリントパックの市民集会に呼ばれたことをきっかけに、お付き合いを始めさせていただきました。新木場でのプリントパック工場宣伝とかもなるべく毎回行くようにしています。みなさんには「職場の要求を核に……」とか、「職場の組織化に力をいれていく」といったことに何よりこだわって欲しいと思いますし、私自身もお手伝いが出来ればと考え、なるべく積極的にかかわる時間を持とうと考えています。私たち自身、職場の中でも職場の外でも、そして社会運動的にも、労働組合の発展に寄与したいと思っています。青年ユニオンというと、どうしても非正規の若い人を中心とした労働組合なので、狭い視野しか持ち得ないのです。職場の中にはいろいろな障害や困難もあるでしょうし、そうしたことへの理解が及ばないという限界もあると思うので、どう乗り越えていくかを考えれば、職場の中で真面目に一生懸命頑張っているみなさんと、手を取り合ってこの労働運動全体をどう活性化していくのかを考え、実践する必要があると思っています。そういったことに積極的に取り組んでいきたいと考えています。
 また『印刷出版フォーラム』に戻ってしまいますが、この中でも「全印総連として一つでも多くの労働組合のある職場を作っていくということは、自分たちの産業を守ることにもつながると思っているのでそこも努力を」ということが書かれています。そのお手伝いも青年ユニオンはできるんじゃないかとも思っています。大いに労働運動をみなさんと一緒に盛り上げていきたいという決意も最後に述べておきたいと思います。

 ――ありがとうございます。時間が来てしまいました。まだ聞きたいことがたくさんあるかと思いますが、今日は夜までお付き合いいただくということなので、まだ聞き足りないところ、ここはどうなんだということは、この後に聞いていただければと思います。さらに議論を深めたいと思います。


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